地方政府同士で「マスク」を奪い合った

新型コロナウイルスの感染拡大初期、さらにパニックに輪をかけたのが、マスクをはじめとする防疫物資や医療物資の不足でした。

武漢の協和医院をはじめ、数十の医療機関で、マスク・消毒液・防護服・手術衣などの物資不足のために、緊急に寄付してほしいとの公告が1月23日以降、相次いで出されました。

SNSには、看護師が過労と恐怖で泣き崩れ喚く様子や、院内の廊下に遺体と生きている患者が一緒くたに寝かされている様子を映している動画などが、次々とアップされては削除されました。やがて削除が追い付かなくなるほど、そうした緊急事態を訴える動画は次々と上げられました。

▲マスクの購入を制限する北京のスーパーマーケット 出典:ウィキメディア・コモンズ

マスク不足の深刻化は、地方政府同士の力づくでの奪い合いにまで発展しました。2月初め、重慶市が麗江経由で海外から購入したマスクを、雲南省大理市は同市内の宅配会社によって輸送される途中に、差し押さえて徴発しました。

国務院は1月29日の段階で「医療物資の徴発禁止」を通達していましたが、防疫工作に必須のマスクを確保するために、地方政府も中央の言うことをききません。

また、2月に入ってから広東省は、広州市や深圳市に防疫工作に必要であれば民間人や法人の施設・装備・車・物資などを、徴用・徴発する権利を認める通達を出しました。

感染防止のためなら、個人の財産権を含む、およその権利が後回しにされてもいいということになりました。

▲香港でマスクを買い求める人々(2020年1月30日) 出典:ウィキメディア・コモンズ

中国国内の感染が鎮静化し、武漢封鎖が解除されたあとは、外国人が感染拡大源として迫害されました。広州に多く居住するアフリカ人が特にターゲットになりました。

こうして武漢を中心に、中国各地で疑心暗鬼とパニックと秩序の混乱が起きているというのに、習近平は企業の再稼働を急がせました。

2月10日から国内企業・工場に従業員の職場復帰・生産再開の号令をかけており、新華社などは、新型コロナウイルスの打撃から経済が比較的早く回復するとの見込みを報じ始めました。

ですが、現実は武漢をはじめ中国各地とも、経済が再稼働できるような条件は整っていませんでした。地方政府から挙げられている工場再稼働率の実態が「虚偽」であり、実際は中小工場を中心に、生産の再開の目途がほとんど立っていないことも、一部中国メディアによって暴かれてしまいました。