ゲノム解析の結果「生物兵器」説は否定されたが…

分子生物学者で、ラトガース大学のワクスマンインスティチュート・オブ・マイクロバイオロジーのリチャード・オブライト教授は、ボイス・オブ・アメリカの取材に対し、新型コロナウイルスは実験室の事故を通じて動物から人に感染した可能性が存在すると語っています。

彼は「中国の多くの実験室で、蝙蝠コロナウイルスが採取され研究されている。それには武漢疾病コントロールセンターと武漢ウイルス研究所も含まれている」と話していました。

金銀潭医院副院長の黄朝林ら30人の医師、研究者がまとめた論文(「ランセット」1月24日)によれば、12月1日から1月2日までに同病院に入院した感染初期の41人の感染者のうち27人に華南海鮮市場接触歴がある一方で、早期感染者には市場接触歴がないので、感染源は市場以外という見方を示しました。

この論文筆者のひとりで金銀潭医院ICU主任の呉文娟が英BBCに語ったところによれば、12月1日の最初の患者は70歳代の老人男子で、脳梗塞と老年性認知症の症状があり、自宅で長期間寝たきりだったそうです。その後、家族が発病しました。

さらに興味深いのは、武漢ウイルス研究所の副主任であるバイオ科学者の石正麗チームが『Nature Medicine』(2015年11月9日)で、中国馬蹄コウモリから見つかったSARSに似たコロナウイルスの一種(SHC014-CoV)が、疾病を引き起こす可能性に関する論文を発表していたことです。

これはSARS遺伝子から、リバースジェネティクス(逆遺伝学)の手法を活用して一種のキメラ・ウイルスを生成、同定したという内容でした。この人為的キメラ・ウイルスは、変異によって人の気道に感染できるようになる可能性があるそうです。

ちなみに、この研究には米ノースカロライナ大学の研究者ら米国人研究者も参与し、実験の計画、実施はノースカロライナ大学のラボで行われていました。

なので、仮に今回の新型コロナウイルスが、この人為的キメラ・ウイルスに関与するものだとしても、流出元としては米国の研究室の可能性だってあるだろう、というのが中国の言うところの「米国の生物兵器説」側のひとつの根拠になっているようです。

もちろん、米国シアトルにあるフレッド・ハチソン癌センターのトレバー・ベッドフォード博士ら27人の専門家・科学者たちは、新型コロナウイルスのゲノム解析結果として、新型コロナウイルスが遺伝子工学的なゲノム編集によって作られた人為的ウイルスの可能性を完全否定しており、ランセットなど医学誌でもその結果を発表しています。

▲ゲノム解析の結果「生物兵器」説は否定されたが… イメージ:PIXTA

ゲノム編集したウイルスであれば、大量の遺伝物質を置換する必要があるが、新型コロナウイルスのゲノム配列からは、その種の痕跡は観察されていないそうです。なので、科学者たちの見解は「生物兵器」ではなく、そんな陰謀論を言うべきではないとの立場です。

ただ、それが実験室から漏洩したものではないという証拠にはなりません。

生物兵器用に人為的に作ったものでなくても、少なくとも解放軍はSARSなどコロナウイルスの変異の実験や研究を実験室でしており、新型コロナウイルスについて、仮想のバイオ兵器として訓練を行うくらいには恐ろしいという認識は持っていたということなのですから。