別れの時は突然に・・・

1年のなかで最も寒い1月の朝、僕はいつものようにアニーの寝室に向かいました。寝室に続く通路の鉄のドアを開け「おはよー!」と声を掛けます。いつもなら〈オウ オウ〉と挨拶に応えてくれるのに、この日は返事がありません。

「あれ、おかしいな」と思い、急いで部屋に向かうと、アニーはいつもの床暖房の効いた床の上で、麻の袋を布団替わりに寝ていました。

「アニーおはよう!」再び声をかけますが、全く動きません。僕は嫌な予感がして急いでドアの南京錠を外し、アニーに近づき。肩をトントンと叩きました。

昨日、帰るときはいつも通りでした。彼女のかゆい腕に僕がクリームを塗ってあげて、最後にはヨーグルトを食べて、ミルクを飲んで普段と何も変わりない状態だったのです。

電気を消して僕は「おやすみ」と声を掛けました。彼女はいつもよりやや長めに〈オウ オウ オウ オウ〉と答えました。これが僕と彼女の最後の会話でした。アニーは呼吸をしておらず、二度と目を覚ますことはありませんでした。

▲アニーとの別れの時は突然やってきました イメージ:PIXTA

動物園で亡くなった動物たちは病理解剖されます。動物園で飼育している動物は、治療経験も情報も少なく、どんな薬が使えるのかなど、わかっていないことが多いような現状……。ですので、死因を調べて、治療経過や使用した薬や量、解剖結果を他の動物園の獣医師と共有し、次の命を救うために力を尽くしているのです。

アニーも僕が解剖しました。とてつもない試練です。あんなに仲良くしていたアニーの解剖を自分がしなくてはいけないなんて……。

しかし、悲しんではいられません。臓器の重さ、位置や色などをデータとして残すとともに、何かの病気を見逃していなかったかなど細かくチェックしていきます。

アニーは僕のことをどう思っていただろう。左腕のほくろの毛を見ると、今でもときどきアニーの優しい目を思い出します。

アニーとともに過ごした日々があったからこそ、僕は今も獣医師を続けていられるのだと心から彼女に感謝をして、今日も動物を救うため治療にあたっています。

今回はこのあたりで。また次回お会いしましょう。

「スーパー獣医 Dr.北澤のどうぶつ事件簿」は、次回3月9日(火)更新予定です。お楽しみに!!


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十三次どうぶつ病院
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