米トランプ政権以来「新冷戦」とまで言われる米中の覇権争いが続いています。アメリカと同盟関係を持ちながらも、同時に日本は中国との関係も重視せざるを得ず、一方のアメリカは台湾との関係も強めている状況。バイデン政権の対中国・台湾政策が注目されるなか、日本はどんな立ち位置をとるべきなのかが問われています。
日本と台湾とのこれまでの関係は、アメリカと中国の「顔色」を同時に伺いながらのものでした。それを象徴する2つのエピソードを、台湾独立運動に長年関わり続け、2009年に日本に帰化した、金美齢さんが語ります。
※本記事は、2020年7月に発売した金美齢:著『愛国心 -日本、台湾-我が2つの祖国への直言-』(ワニ・プラス:刊)より一部抜粋編集したものです。
トランプ前大統領とのエピソード
2019年には、日台の輪に当時のトランプ米大統領まで巻き込んでしまいました。これは全く偶然だったのですが、偶然も力に変えていくことが重要です。
トランプ大統領は2019年5月に国賓として来日した際、東京の両国国技館で大相撲観戦をしました。私はたまたまその日、作家の門田隆将さんに招待されたのですが、なんと席がVIPの出入り口の横だったのです。安倍元首相が国技館の場内に入ってきたときに声をかけたので、私がいた場所がわかっていたのでしょう。トランプ大統領と退出するとき、安倍さんが私のことを大統領に伝えてくれていたらしく、大統領がこちらへ近寄って来ました。
そこで私は「I am from Taiwan. I am a friend of Tsai Ing-wen.(私は台湾から来ました。私は蔡英文の友達の一人です)」
大統領は「Thank you!」と応じ、このやり取りが台湾でニュースになったのです。アメリカの大統領が、古参の台湾独立派と言葉を交わす。この映像を見て、中国はどう思ったでしょうか。全くの偶然ですが、これも中国への「強烈な一突き」になったはずです。
「李登輝訪日」を阻止し続けてきた政治家たち
中国の目を気にせず、台湾との関係を育むこと。安倍さんは気を吐き、折に触れて台湾との関係を重視していることを言葉や態度で示していましたが、日本ではたったそれだけのことができない状況が続いてきました。
その象徴が、1990年代以降の李登輝さんの訪日に関する問題です。
はじめは1994年の広島でのアジア大会。アジア・オリンピック評議会からの招待を受けた当時の李登輝総統が開会式への出席を表明すると、中国が日本に猛烈な圧力をかけ、評議会が招待を取り消すという醜態を演じました。
翌1995年、今度はAPEC(アジア太平洋閣僚会議)の大阪会議が開かれましたが、台湾は正式メンバーであったにもかかわらず、首脳である李登輝総統の出席を拒否しようとしました。しかも、その前年から日本政府(当時は村山富市首相・河野洋平外相)が出席を否定し、李登輝さんが訪日を断念するよう働きかけるという醜態を晒したのです。
そして1997年、京都大学百周年の記念式典に参加したいと申し出た李登輝さんに対し、京大側は「李登輝は中途退学だから」という理由で参加を拒絶。背後に政治的な圧力があったことは言うまでもないでしょう。