屋外では誰もマスクを着用していない

なによりも驚くべきこととして、オランダではマスクの着用がこれまでほぼ義務づけられてこなかったことが挙げられる。オランダ政府はマスク着用が不要であると主張し続けてきたのだが、その理由としては、マスクの着用を義務化させることでソーシャル・ディスタンシングへの意識が薄まる恐れと、医療従事者のマスク不足の深刻化が挙げられた。

それから1年近くが経った今でこそ、公共交通機関の乗車中や店舗内に限ってマスク着用が義務づけられたが、電車から一歩でも降りれば着用する必要はなく、当然のように屋外では誰もマスクを着用していない。

考えようによっては対策が緩い気楽な国とも見受けられることから、対策が厳しい周辺各国の人々が、自由の楽園を求めてオランダまでやってくるほどだ。そのことから、街中でマスクをしている人を見かければ、それは老人か、あるいは他国からやってきた人だろうと推測するのが、この国でのお決まりである。

現在、飲食店はテイクアウトのみを受け付けている。レジカウンターの前に厚いプラ板の仕切りを取り付けることで、店員と客を遮るのが一般的だ。それによって店員が感染の脅威にさらされることはなくなり、客は店内でのマスク着用が義務づけられているため、店で感染する人は出てこないはずだと結論づけるのだろうか、店員は店内でマスクを着用しないケースがしばしば目につく。

これが私にはどうにも腑に落ちない。というのも、彼らはマスクをしないまま会話しながら調理をしているからである。当然のように飛沫は食べ物に降りかかる。仮に店員が店の外で感染していたとしたら……? そんなことを気にし出すあまり、客としては足が遠のいてしまうことがある。

▲今年2月。アムステルダムの運河は凍り、人々はスケートに興じた

自由が守られた世界的に稀なロックダウン

その後もオランダでは断続的にロックダウンが敢行されてきた。2021年3月11日現在も、昨年末から3か月近く続くロックダウンの最中だが、他国に比べると一定の自由が保たれてきた方だと言えるだろう。

一般的な店舗や、美術館などの公共施設は昨年末から閉鎖されたままだが、生活必需品を取り扱う店舗、つまりスーパーマーケットや八百屋、精肉店、郵便局、薬局、ガソリンスタンドなどは営業している。また、1月23日からは夜間外出禁止令の施行が継続中だが、日中の外出制限は設けられていない。

そればかりか、政府による夜間外出禁止令の発令は違法であるとの判決が裁判所によって下され、一時は夜間外出禁止令を解除すべきか否かが議論されたほどだ。すったもんだを経た挙げ句、人との接触を減少される意味で効果があるとの結論が下され、現在も外出禁止令は継続中である。

▲ライクス国立美術館。昨年末から始まったロックダウンの前に滑り込み入館して以来、閉館したままだ

日本人の私からしてみれば、どれも仰天ばかりのオランダ独自のコロナ対策だが、これらを理解するにはおそらく、オランダ人が独自に持つ「自由」の考え方を知る必要がある。そこで、オランダ特有の「自由」について簡単に触れたい。