通貨発行権という“特権”に手を出すと命が危ない

馬渕 次のポイントは、アンドリュー・ジャクソン(1767〜1845)です。

岡部 アメリカの第7代大統領ですね(在任期間:1829〜1837)。

▲アンドリュー・ジャクソン 出典:ウィキメディア・コモンズ

馬渕 はい。ジャクソンについては、メディアはもちろんネットでもあまり話題になっていないんです。

ジャクソンの話をする前にひとつ補足しておきますと、学校の教科書には出てこない南北戦争の歴史的事実があります。それは、北部を率いたリンカーンが戦費を調達するのに、ロンドンのシティからおカネを借りず、むしろそれを拒否して政府の通貨を発行したことです。

これに対してロンドンのシティと、彼らの代理人である『ロンドン・タイムズ』〔イギリスを代表する高級日刊紙。イギリスの政治・外交に影響を与え、国際的な影響力も大きい。1785年創刊〕が噛みついています。何を言っているかというと、政府が通貨を発行すれば、通貨の発行に負債が伴わないというわけです。

政府が通貨を自由自在に発行すれば国の負債がなくなる。商業活動などで必要な費用もすべてまかなえるようになる。そうすると、アメリカはとてつもなく繁栄するだろうし、世界の富がすべてアメリカに集まることになる――だから「このような政府は打倒しなければならない」とまで『ロンドン・タイムズ』は書いているんです。 

結局リンカーンは1865年に暗殺されましたが、その最大の理由は、彼が政府通貨を発行したこと、ひいてはイギリス(を裏で操るシティの金融資本家たち)が目指した「アメリカの南北の分裂」を失敗させたことにあると思われます。

馬渕 それを踏まえたうえでのポイントがアンドリュー・ジャクソンです。

ジャクソンは、実は命を懸けてアメリカの中央銀行を廃止した大統領でした。当時アメリアで中央銀行の役割を果たしていた第二合衆国銀行は、20年ごとに営業認可を更新していたのですが、ジャクソンはそれを認めなかったわけです。それをメディアは一言も言わないですし、歴史家もそこには注目していません。

アンドリュー・ジャクソンが非常にポピュリスト的な大統領だった、とかいうことは言ってもね。彼の最大の功績は、中央銀行を廃止したことにあったと私は思うんですが、この功績はあまり注目されていません。

そんなジャクソンの肖像画を、トランプはホワイトハウスの執務室に掲げていました。非常に意味深いですよね。つまり、トランプの最終目的はFRB〔Federal Reserve Board:連邦準備制度理事会〕の廃止だったと私は睨んでいるんです。

岡部 なるほど。中央銀行の廃止ですか。

実際に暗殺された3人の大統領

馬渕 一般的によく誤解されているのですが、通貨発行権を持つ各国の中央銀行、たとえば日本の日本銀行やアメリカのFRB、イギリスのイングランド銀行などは“国有銀行”ではなく“私有銀行”、つまり民間銀行です。

FRBを例に挙げるなら、FRBは1913年、第28代大統領のウッドロー・ウィルソン(1856〜1924)の民主党政権下で創設されましたが、当時FRBの株主になったのが、ロスチャイルド系銀行・ロックフェラー系銀行をはじめとする、英米国際金融資本家たちです〔ロスチャイルドはイギリス最大の富豪でユダヤ系金融業者の一族。ロックフェラーは世界の石油産業を牛耳るアメリカの大財閥〕

この時以来、今日にいたるまでアメリカの金融は、イギリスのシティの国際金融資本家たちによって握られ続けています。このFRB創設こそ、アメリカにおけるディープ・ステートの原点です。

▲ロスチャイルド邸 出典:PIXTA

FRBが‟私有銀行”だということは、アメリカ国民が日常生活のあらゆる場面で必要な通貨である‟ドル”の発行に対して、アメリカ政府はなんの権限も持っていないということです。つまり、ドルの運命はFRBの民間人株主、すなわちディープ・ステートの意向に左右されるということになります。これがいかに重大なことであるかがおわかりいただけるでしょう。

ようするに、FRBというのは実際のところ、ディープ・ステートがなんの痛みも感じずにドルを発行するための機関であり、彼らはそれでボロ儲けしています。紙幣ならコストは紙代・印刷代くらいですから、たとえば100ドル紙幣だと、1枚あたりおそらく99ドル50セントぐらい儲けているわけです。もっとも、この印刷コストは連邦政府が負担しています。というのも、FRBの許可を得て、財務省が印刷しているのです。

一方、アメリカ政府は国債の見返りにドルを発行してもらっているわけですから、借金だけに絡んでいる。だから、こういうおかしな仕組みを改めなければいけない、つまりはFRBを廃止しなければいけない、というのがトランプの‟究極の目標”だったと私は思っています。

岡部 ‟究極の目標”がFRBの廃止ですか。

馬渕 彼は経済人だから、これがいかにおかしな仕組みであるかがよくわかっていたはずです。通貨発行権をアメリカのピープルに取り戻すということは、ようするに通貨発行権を議会に取り戻すということですね。それを究極の目標にしているからこそ、トランプがジャクソンを尊敬しているのだと思います。

そう考えれば、なぜディープ・ステートが今回の大統領選挙でなりふり構わず、それこそクーデターを起こしてまでトランプを引きずり下ろさなければならなかったかということがよくわかります。そうしないと、彼らはFRBという大切な金ヅルを失うことになるわけです。

通貨発行権は、ディープ・ステートにとって絶対に手放せない特権なのです。だからこそ、彼らはなりふり構わず不正をやった。それをやってでも、絶対にトランプを引きずり下ろさなければならなかった。本当にトランプにとっては命を懸けた戦いだったと私は見ています。事実、過去にアメリカ大統領で通貨発行権というディープ・ステートの特権に挑戦した大統領は、すべて暗殺もしくは暗殺未遂を経験しています。

何を隠そう、アンドリュー・ジャクソンも暗殺されかけた大統領のひとりです。他には、第40代大統領のドナルド・レーガンも暗殺されかけています。

実際に暗殺されたのは、先に名前の出たリンカーンとケネディ、そして第20代大統領のジェームズ・ガーフィールド(1831〜1881)です。

▲ジェームズ・ガーフィールド 出典:ウィキメディア・コモンズ

ガーフィールドは「我々の国では、おカネをコントロールする者が産業や商業の頭となっている」と語り、1881年3月の大統領就任からわずか4カ月後にワシントンで銃弾に倒れています。このときアメリカは中央銀行が不在でしたが、金融資本家たちが金融パニックを演出するなど、中央銀行設立へ向けさまざまな工作を行っていました。

▲ジョン・F・ケネディ 出典:ウィキメディア・コモンズ

 ケネディは1963年6月4日に、FRBの持つ通貨発行権を合衆国政府に取り戻す目的の大統領行政命令11110号に署名しました。

そうした過去の歴史を踏まえると、トランプの今後の行動が気になるところです。