世界は今、未曾有の大混乱に陥りグローバリズムの崩壊を目の当たりにしている。この刻々と変わる国際情勢を読み解くには、これまでの歴史に隠された事実を学び、キーとなる大国アメリカ・ロシア、そして日本の関係性を正確に捉える必要がある。在外歴約40年の元外交官・馬渕睦夫氏が、日露戦争を中心に解説します。

※本記事は、馬渕睦夫:著『国際ニュースの読み方 コロナ危機後の「未来」がわかる!』(マガジンハウス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

日清戦争をきっかけに、日本を恐れ始めたアメリカ

日清戦争は「朝鮮を近代化させて独立させようとした日本」と「朝鮮を近代化させずに属国のままに置こうとした清国」との戦争でした。朝鮮半島は、ロシア帝国の脅威に対する日本の生命線でもありました。

当時の欧米列強は、新興の日本を警戒してはいましたが、日清戦争勃発の時点では、お手並み拝見といった感覚でした。半植民地化しているとは言え、清は大国でしたから。

ところが、日本が勝利しそうな状況になると、欧米列強は「日本もなかなかやるな」という反応になり、徐々に台頭する日本を恐れはじめました。

特にアメリカはまだ歴史も浅く、イギリス・フランス・ドイツ・ロシアに追いつき追い越せという立場にありました。中国大陸の市場は必要不可欠で、むざむざ日本のものにさせるわけにはいきません。

アメリカは、軍を派遣したりなどはしていませんが、日清戦争の最中の1894年12月、アメリカの新聞が「日本軍が旅順で虐殺行為をした」と報道しました。 

ジェイムズ・クリールマンという記者が、ジョゼフ・ピューリッツアーの主宰するイエローペーパー、つまりスキャンダル新聞『ニューヨーク・ワールド』に書いた捏造記事です。

▲New York World 出典:ウィキメディア・コモンズ

なぜそのような報道になったのか。「アメリカによる、日本への警告」ですね。それと同時に、アメリカ国民に、日本は悪辣な残虐国家であるというイメージを植えつけるためです。

この捏造記事については「日清戦争の頃から、アメリカは日本を警戒していた」というところが重要です。

植民地支配構造の崩壊を恐れる勢力

欧米列強が日本を恐れた一番の理由は何か――。それは、日本が台頭すれば、欧米による植民地支配の構図が崩れることです。

ライバルというわけではありません。日本がアメリカやヨーロッパと同じように、外国に対して植民地支配をしようとしたのであれば、その見方は成り立ちます。しかし、日本はそうではありませんでした。

「日清戦争の勝利は、日本帝国主義の幕開けである」という話をよく聞きますが、まったく違います。日本は一貫して、アジアを発展させ、アジアの各国と一緒になって欧米諸国の植民地化政策に対抗しようとしたのです。

日本は「アジアよ、立て!」と言い続けた......。欧米諸国が恐れたのは「アジアが目覚めてしまう」ということです。

アジアの国々が「植民地支配を脱して独立する」ということです。欧米諸国は、日本の台頭によってアジアの植民地が解放されることを恐れました。それは「欧米諸国がアジアから追い出される」つまり「莫大な利益を失う」ということを意味します。

ポイントは、やはり「植民地化」です。当時の日本は、欧米の植民地になってしまうのを避けることに必死だったのです。

▲ジョルジュ・ビゴーによる当時の風刺画 出典:ウィキメディア・コモンズ

相手は、イギリス・フランス・ドイツ・ロシア・アメリカという列強です。日本一国では太刀打ちできません。そこで「一緒にやりましょう」とアジア諸国に対して、繰り返し呼びかけていたわけです。

アメリカは、アジアを含めた世界に向けて「日本軍が旅順で虐殺行為を行った」という捏造記事を発信しました。これは、植民地支配を覆そうとする日本の台頭をよしとしない勢力が、新聞を使って日本を牽制したことを意味します。