「連合王国」崩壊の危機にあるイングランド

ただし、人口でイングランドの10分の1にも満たない約540万人のスコットランドでは、逆に残留派が離脱派を大きく上回っています(2016年の国民投票では残留派が62%、離脱派が38%)。残留派が多いスコットランドや北アイルランド、ウェールズの人たちはこれを機会にイングランドから分離独立する独立志向が強まっています。だから、今はまさに「連合王国」崩壊の危機でもあるわけです。

▲エジンバラ城から見下ろしたエジンバラの街並み 写真:PIXTA

イギリスが混乱し続けると、スコットランドの独立に向けた機運が再燃しかねません。独立の是非を問うた2014年9月の住民投票では反対多数となりましたが、英国のEU離脱に伴う混乱に加え、行動制限や屋内でのマスク着用の義務化を早々に導入し、ロックダウン(都市封鎖)を緩やかに解除するなど、新型コロナの流行を抑制するスコットランド自治政府の対策を住民が評価しています。

このため自治政府のニコラ・スタージョン首相は、再度住民投票を実施する方針を打ち出し、独立への支持が広がっています。

英調査会社イプソス・モーリ社が2020年10月14日、スコットランド住民を対象に実施した世論調査の結果、独立賛成が55%と、反対の39%を大きく上回りました(「わからない」は6%)。コロナ感染が拡大した2020年春以降、独立賛成が支持を伸ばしています。

独立派のスコットランド国民党(SNP)の支持率も、軒並み50%を上回っていて、2021年5月に任期満了を迎えるスコットランド議会選挙では過半数が見込まれます〔編集部注:選挙の結果、SNPだけでは過半数に届かなかったが、スコットランド独立を支持する政党が過半数を確保した〕。イプソス・モーリ社の世論調査では、SNPが過半数を取った場合、「住民投票を実施するべきか」と質問に対して、64%が「必ず」または「恐らく」するべきだと回答しています。

ただし、独立の是非を問う住民投票の実施にはイギリス政府の許可が必要です。ジョンソン元首相は、住民投票の再実施を容認しない考えを崩していませんでした。

スコットランドは、中世前期に建国されたときから独立国家で、1707年にイングランドと連合王国となる前まではフランスや大陸欧州との関係が強い。だから、この機会に「欧州国家」として主権国家に戻ろうと独立機運が高まっています。独立すれば、300年超の歴史を持つ「連合王国」は存続できなくなる。「国家分裂」のリスクをはらんでいます。

▲エジンバラのヴィンテージストリート 写真:PIXTA

ブレグジットに伴う分断を引きずると、連合王国の崩壊にも発展しかねません。これからアメリカで起ころうとしていることも、おそらく同じようなものではないでしょうか。アメリカの場合はマイノリティが複雑化・多様化しているぶん、もっと先鋭的になるんじゃないかなと思います。

世界の行き来が自由になることの恐ろしさ

馬渕 そういうエニウェアを、1人でも多く生み出そうとしているのが、まさにアメリカ民主党のやっているアイデンティティポリティクスやポリコレ(ポリティカルコレクトネス)なんですよ。ようするにグローバリズムなんですね。

垣根をなくして伝統的な共同体を潰せば、みんなどこで住んでも同じだとなる。だから、歴史を否定したり、隠蔽したりして、共同体的な“紐帯”、すなわち結びつきを弱めてきたわけです。秩序を批判して、共同体の紐帯をどんどんなくしていく。そうすると、みんなエニウェア、つまり「どこでも住める人間」になります。

「どこでも住める」とだけ聞くと、プラスのことのように感じる人がいるかもしれませんが、実際のところ、それは宙に浮いたような、地につかない生活になるわけですね。

地に足がつかない彼らエニウェアの人たちの共通項は何かというと、“マネー”しかないわけです。文化はその土地の共同体との関わりのなかで生まれてくるものだから、グローバルな文化なんていうのは結局のところ空っぽで、何もないわけですよ。マネーと、あとはせいぜい若者が楽しんでいるような、世界各国共通のヘラヘラしたサブカルチャー的なものですが、あんな文化と呼べないものくらいしか残らない。

しかし、かえってそのほうが国民を支配しやすくなるというのが、裏で筋書きを書いている人たち、つまりグローバリスト(ディープステート)の考え方です。

だから、“愛国者”であるトランプさんは、それに反対してきたわけですよ。プーチン大統領にしてもそうです。

垣根がなくなって世界の行き来が自由になるということは、逆にいつでも戦争になるということですからね。そういう深刻な問題が今、世界中で起きているわけです。それはイギリスのような小さな領域の中でも起こっているし、もうちょっと大きなアメリカでも起こっているし、世界全体でも起こっている。そういう気がしますね。