王室が連合王国分裂の危機を救っている

岡部 馬渕大使の言われた通り、日本では皇室が国をひとつにまとめていますが、イギリスでも王室がその特別な役割を果たしています。

スコットランド独立の機運が再燃し、「連合王国」分裂の危機でもあるのですが、少なくともエリザベス女王がご健在のあいだは、分離独立することはないと考えます。

「国民統合の象徴」として国民全体から敬愛される存在が「権威」となり、女王と王室が両国を結ぶ媒介の役目を果たし、仮に独立したとしても、スコットランドもエリザベス女王をともに君主にいただく同君連合(複数の国家が同一の君主をいただいて連合する体制)として、英連邦にとどまり完全に分裂できないと思います。中世以来続くイギリス王室が「連合王国」崩壊の危機を救う切り札となりうると思います。

▲エリザベス女王(2014年) 出典:CPOA(Phot) Thomas Tam McDonald (Royal Navy)

スコットランドとのイギリス王室の関係は、連合王国のなかでも極めて強いです。エリザベス女王の母親はスコットランドの名門貴族出身なので、女王にはスコットランドの血が流れています。また、女王をはじめとする王室のメンバーは、毎年夏になると、スコットランドのハイランド地方アバディーンにあるバルモラル城で休暇を過ごしています。

加えて、チャールズ皇太子が通った高校は父のフィリップ殿下と同じスコットランドの名門寄宿校、ゴードンストウンスクールですし、ウィリアム王子とキャサリン妃が学んだ大学は、スコットランドの名門、セント・アンドリュース大学です。

イギリス王室にとって、スコットランドは切っても切れない身近な存在です。スコットランドの独立派からしてもイングランドと完全に袂(たもと)を分かつことはできないんじゃないでしょうか。

実際、スコットランドのスタージョン首相(SNP党首)は、独立したとしても「王国」を継続し、共和制に変わることはないと明言しています。つまり、今と変わらず、君主には、エリザベス女王を擁立するとしていたわけです。

スコットランド独立派にとっても、イギリス王室は安定・伝統・継続という特別な価値観を持つ存在であり、国家には不可欠だというわけですね。

▲バルモラル城 出典:adfoto / PIXTA

このように「連合王国」では、王室がスコットランドや北アイルランドなどの各国を結び付ける「紐帯」ともいうべき、特別な存在になっています。

エリザベス女王は、1952年に25歳の若さで即位して以来、16カ国の主権国家(英連邦王国)の君主として君臨してきました。イギリス史上最高齢であり、イギリス史上最長在位の君主です。

ただエリザベス女王の存在が大きすぎたがゆえに、次期王位継承者であるチャールズ皇太子が同様に国民から慕われ、統合のシンボルとなりうるか、疑問符が付きます。「君臨すれど、統治せず」。英王室は国民から敬愛されてこそ、社会安定機能を果たします。国民の不満が高まれば権威が失墜し、イギリスの「国体」が危うくなります。

そうであればこそ、英国民が愛想を尽かしたヘンリー王子夫妻の王室離脱と、王室に人種差別があったとする発言の影響は少なくありません。英王室は国民の信頼を再び取り戻し、「連合王国」崩壊の危機に瀕して分断した国民を統合して欲しいと思います。