新ネタ書いてドーンと笑いが来るとツラいことも忘れる
――この本は漫才論でありつつ、師匠が辿ってきた人生の本でもあると思うんですよね。すごく興味深く読んだんですけど、漫才師として生きてきたご自分の人生を振り返る作業はいかがでしたか?
巨人 楽しい時間とツラい時間に分けたらツラい時間のほうが多かったですね。ネタ作らなあかんし、阪神くんともずいぶん仲悪かったし。今はいいですよ、もちろん。でも昔は仲よく見せないかんとか、お客さんには笑うてもらわないかんとかあってね。そういうことを考えれば、ツラいほうが多かったな。ただ、新ネタ書いて1回ドーンと笑いをとってしまうと、ものすごく気持ちよくて、今までのツラいことを忘れるんです。
――その気持ちよさがモチベーションになっているんですね。
巨人 そうですね。今はもう新ネタは劇場でやって、劇場のお客さんに喜んでもろうたら僕らは一番うれしい。
――巨人師匠はもちろんなんですけども、吉本芸人さんってストイックな方が多いなと思って、自分の芸なり自分自身のことすごく冷静に見てらっしゃいますし。そのなかで、どういうふうに高みに昇るかみたいなのを常に考えて精進していらっしゃる方が多いんですよね。
巨人 そうですね。たぶん売れてる子とか、これから売れる子も、僕らもそうなんですけど、24時間お笑いのことを考える。考えておかないかんと思うんですよ。デビューからはある程度……20年ぐらいまで、最低10年、15年までは年がら年中お笑いのことを考えておかないといけないと思いますね。
――それってもしかしたら、巨人師匠が作った気風というか、風土なんじゃないかなって思うんですけど。
巨人 いやいや。そんなことは、僕はそんな全然力ないし。お笑いってネタ書いているときでも、「偶然」ってほとんどないと思うんですよね。年がら年中考えているからそれがぽっと降りてきただけで。それはスタートダッシュから5年、10年、15年まではやっておかないとあかんとは思いますけどね。
――それでいくと皆さん、若いときはひたすら足し算でいきますけど、熟練してくるとどんどん引いていって、必要最低限のもので素晴らしい漫才ができるようになるという感じですよね。それこそ、いとこいさん(夢路いとし・喜味こいし)みたいに。
巨人 そうですね。ただ、シンプルにわかりやすくするため、お客さんに届けたいと思って「この言葉いらない、抜こうか」って思って、それをとって漫才やると、全然ウケないときあるんですよ。無駄な言葉も、無駄でないということがよくあるんですよね。なんで言葉一つで、と思うことはよくあります。だから難しいですね。舞台では同じようなネタをずっとやってんねんけど、そのなかでもちょっと変えるときあるんですけどね。それが全然ウケへんかったりするんですよ。やっぱりあの言葉はいらんねんなとかね。僕、舞台出てるとき、頭の上に吹き出しがあったらずっと喋ってます。「今ちょっと速い」「阪神くん調子悪いんちゃうか」「今あのお客さんどうや」とかね、ずっと喋ってる。
――頭がフル回転しているということですね。師匠はたくさんの若手もご覧になっていると思うんですけど、この子は伸びるなとか、この子は売れるなとかというのはわりとすぐわかる感じですか?
巨人 どうでしょう。昔はよくわかりましたけど、最近は「この子はあかんやろうな」と思っても、売れてる子もいてます。それは僕の感覚が鈍ったというんじゃなしに、今はいろんな露出の仕方があるし、いろんな売り方もあるということだと思いますけどね。でも、この子は絶対来るやろうなということはわかります。
――こと漫才ということにフォーカスすると、やっぱりこの『漫才論』に書いてあるメソッドや精神を体現している人ということになりますかね。
巨人 そうですね。
≫≫≫ 明日公開の後編へ続く
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