対中政策の転換を支えたのが歴史学者のユ教授
当時のマイク・ペンス副大統領は、2018年10月4日のハドソン研究所における演説で、「これまでの政権は、中国での自由が経済的だけでなく政治的にも、伝統的な自由主義の原則、私有財産、個人の自由、宗教の自由、全家族に関する人権を新たに尊重する形で、また、あらゆる形で拡大することを期待してこの選択を行ってきました。しかし、その希望は達成されませんでした」と指摘しました。
これまでの関与政策の誤りをはっきり指摘したわけです。
さらにマイク・ポンペオ国務長官(当時)が2020年7月、以下のような内容の演説(要旨)を行い、関与政策がむしろアメリカの国益に反し、国際秩序を傷つける結果になったことを批判しました。
中国との闇雲な関与の古い方法論は失敗した。我々はそうした政策を継続してはならない。戻ってはならない。自由世界はこの新たな圧政に勝利しなくてはならない。
米国や他の自由主義国の政策は中国の後退する経済をよみがえらせたが、中国政府はそれを助けた国際社会の手にかみついただけだった。中国に特別な経済待遇を与えたが、中国共産党は西側諸国の企業を受け入れる対価として人権侵害に口をつぐむよう強要しただけだった。
中国は貴重な知的財産や貿易機密を盗んだ。米国からサプライチェーンを吸い取り、奴隷労働の要素を加えた。世界の主要航路は国際通商にとって安全でなくなった。
[「日本経済新聞」2020年7月24日]
そして、自由主義陣営が連帯して中国の脅威に対処することが必要だとして、次のように宣言しました。
いま行動しなければ、中国共産党はいずれ我々の自由を侵食し、自由な社会が築いてきた規則に基づく秩序を転覆させる。一国でこの難題に取り組むことはできない。国連やNATO、主要7カ国(G7)、20カ国・地域(G20)、私たちの経済、外交、軍事の力を適切に組み合わせれば、この脅威に十分対処できる。
志を同じくする国々の新たな集団、民主主義諸国の新たな同盟を構築するときだろう。自由世界が共産主義の中国を変えなければ、中国が我々を変えるだろう。
中国共産党から我々の自由を守ることは現代の使命だ。(前掲紙)
このトランプ政権当時の対中政策の転換を支えた歴史学者の一人が、歴史家・戦略家で軍事史及び現代中国の専門家であるマイルズ・マオチュン・ユ教授です。
ユ教授はアメリカの海軍兵学校で教鞭をとっているほか、ハドソン研究所及びプロジェクト2049研究所のシニアフェローや、フーヴァー研究所のロバート・アレグザンダー・マーサー・フェローを務めています。特に重要なのは、トランプ政権でポンペオ国務長官の主要な対中政策アドバイザーを務めたことです。ユ教授は、トランプ政権の対中政策の立案に関わったキーパーソンなのです。
※本記事は、山内智恵子:著/江崎道朗:監修『インテリジェンスで読む日中戦争 -The Second Sino-Japanese War from the Perspective of Intelligence-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。