飛行機を飛ばさなかったのは天候が理由ではない?

桜林 小野田さんはどうご覧になりましたか?

小野田(空) プーチン大統領は2月21日と2月24日に国民向けに長い演説をしているのですが、21日の演説が一番冷静でしたね。

「もともとウクライナはソ連の一部だったが、1991年に独立してしまった。しかし、それはソ連を作ったとき、連邦共和国に独立を含む広範な自治権を与えてしまったからだ」という旧ソ連時代の話から始まり、「アメリカとNATOが約束を破って、NATOが東方拡大し、ロシアへの脅威がどんどん高まっている」といったお決まりの文句を縷々(るる)語る。

そして、最後に「今から行う『特別軍事作戦』は、ウクライナに迫害を受けているドネツク人民共和国、ルハンスク人民共和国のロシア系住民を保護するためだ」といったようなことを言っていました。

2月24日の演説では、そのトーンがさらに強くなり、ウクライナの背後に“西側の策謀”があることを匂わせています。そして、今回の演説では、特別軍事作戦の目的には触れないで、むしろ「西側の侵略に対して我々は戦わなければならない」ということを強調していました。この「西側の脅威」を直接国民に訴えている点が、2月21日当時と比べると明らかに変わっている。

やはり、西側の軍事支援というものがあまりにあからさまになってきた。加えて、武器供与とともに、西側諸国によるウクライナ兵に対する訓練も行われている。こうして西側の支援がどんどんエスカレーションしてくることに対して、プーチン大統領は非常にいらつきを覚えていると私には映りました。

ただ、私が一番違和感を覚えたのは、なぜ飛行機を飛ばさなかったのか、ということですね。私も気になって天候を確認しましたが、あれなら飛べないことはない。ところどころ青空も出ていたので、「これなら飛べるよな」って(笑)。

小野田(空) 航空自衛隊だと天候以外には飛べない理由はないので、違う政治的な理由があったのかと思います。西側の報道によると、核戦争を想定した空中指揮機である「Ⅱ-80(イリューシン80)」も、じつはリハーサルのときには飛んでいたし、戦闘機が「Z」の字を描いて飛ぶような編隊飛行も準備されていた。

国際社会の緊張感を高めるような、そうしたフライトをロシア側が中止したのは、伊藤さんの分析の通り「従来の冷静なプーチン大統領」が戻ってきたからなのか、その辺はよくわかりません。

吹っ切れたように見えたプーチンだったが・・・

桜林 軍事パレードによる国威発揚を言われていただけに、リハーサルまでやっているのに中止したというのは、すごくトーンダウンしたような印象を与えることは間違いないですね。小川さんはいかがです?

小川(陸) 私も伊藤さんに近い印象で、プーチン大統領が落ち着いてきたと思いました。侵攻初期の段階では、プーチン大統領には、まだ戦争継続に対する余裕があって、むしろゼレンスキー大統領のほうが停戦に早くもっていきたい感じがしていましたが、このときはプーチン大統領のほうにも停戦に向けての意思が見え始めたような気がします。あの落ち着いた態度から、何か吹っ切れたようにも見えます。

パレードにしても「特別軍事作戦中」というよりは、「平常時」に行われているようなものに見えました。ただ、例年より一部兵士の動きがそろっていないことが目につきましたが(笑)。

桜林 さすが(笑)。

小川(陸) ついつい、そういうところに目がいってしまいます(笑)。それから小野田さんがおっしゃった2月24日の演説についてですが、このときの演説で述べていたプーチン大統領の戦争目的が、「ほぼ達成された」ということもトーンダウンに関係があるかもしれません。

「東部2州のロシア系住民の保護」については、ドネツク・ルガンスク両共和国の要望を満たすラインに達しつつあります。「ウクライナの非軍事化、非ナチ化」については、ゼレンスキー大統領がNATO加盟を取り下げたことで、ある意味で第一段階は達成したと見ることもできると言えます。

とはいえ、軍事的にはやはりマリウポリを奪取しないと不安で仕方がないという、純軍事的な作戦の継続はあるかもしれません。いずれにしても、3月の時点に比べると今回の演説を通じてプーチン大統領の冷静さを感じました。


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