ブルペンで受けて投手の状態を把握する
やがて、一軍の試合にも出してもらえるようになってきました。その頃は、まだ二番手の地位ができていたわけではありません。まず、グラウンドに行ったら、一軍登録されているピッチャーたちの状態を把握するため、できるだけ球を受けるようにしていました。
シーズンが始まると試合でのコンディションが優先されますから、投手たちもたくさんは球数を投げません。だから、なるべく足繫くブルペンに行って、できるだけ多くの投手の球を捕り、状態把握だけはしておきたいと思っていました。
基本的なことはキャンプから捕っているのでわかるのですが、その時々の調子まではわかりません。たとえば、真っすぐとスライダーをメインで投げるピッチャーなら、それぞれのコントロール、キレは今日はどうなのか、など。
先発投手は練習でも捕れるのですが、中継ぎ投手はそうはいきません。万が一、レギュラーの古田さんに何かあれば出るのは僕なので、そのときに困らないように、よく試合中にブルペンに行っていました。
ところが、プルペンの様子と試合とでガラッと変わってしまうピッチャーは意外と多いです。そのため、「このピッチャーはガラッと変わることがある」「このピッチャーは大丈夫」というところも覚えておかないといけませんでした。
足が速かったばっかりに仕事が増えた
さらに、試合で戦うためには相手打者の攻め方もインプットしておかなければいけません。ただ、一軍ではスコアラーさんがいろんな情報を持ってきてくれます。何を聞いても、どんなバカな質問でもちゃんと答えてくれます。すごく良くしてもらったという思いがありますね。
古田さんに直接聞くというのは、なかなか難しいです。大先輩でもありますし、そこが競争でもあります。なので、スコアラーさんの存在は大きかったです。
このようにやることが多いキャッチャーなのですが、控え捕手だった僕には、もうひとつ「代走」という役割がありました。古田さんが途中で交代するのは、よっぽど大差がつかないとありません。一方、代走は接戦になれば外国人選手が塁に出たときなどに、よく使ってもらっていました。
しかし、この代走がまた難しい。ずっとベンチに座っていたら動けないですしね。足には自信があって盗塁もできたので、野村監督からは「お前は出たらグリーンライト(自分の判断で盗塁していい)でいいよ」と言われていました。なので、ピッチャーのセットポジションの様子を見てクセを探すなど、情報収集をしました。
配球もそうです。たとえばカーブを使うピッチャーだったら、カーブのときに走ればセーフになる確率が高くなるわけですから。どのタイミングで使うか、落ちる球とかだったらスローイングに入りにくいから、どのカウントで使うのかという視点で見ていました。ありがたいことに、またやることが増えました。
「野口どこ行った?」「ブルペンでーす!」「おーい、戻って来―い! 代走!」ブルペンで捕球しているのに、ベンチから呼ばれてダッシュで戻って、急いで防具を外して代走で出場……そんなことがよくありました。神宮球場ならブルペンが近かったですけどね。
次回は、野村監督の人心掌握術について書こうと思います。