ライバルとの格差

30代になると、「売れてやる」という言葉を簡単に言えなくなっている自分に気がつく。若くして売れていったヤツらは運もあっただろうが、実力もあった。ここまで芽が出ない自分が、この先、売れることが果たしてあるのだろうかと、自分の実力に疑問をもってしまう。

事務所を移籍して、さぁまたギア入れて頑張ろうと思う気持ちと、もしかすると、R-1決勝進出以上の結果は出せないんじゃないかと思い悩む日々は続く。

そして1年が経った。R-1ぐらんぷり2015の開幕記者会見には、前年度ファイナリストとして意気込みを語ったが、この年は3回戦で落とされた。前年度ファイナリストでも、容赦なく落とされるのが賞レースだ。

そんななか、同じく前年度ファイナリスト、永遠のライバル・じゅんいちダビッドソンさんは、本田圭佑選手ネタをさらに進化させ、2年連続決勝へと駒を進めた。決勝戦当日は事務所ライブだったが、楽屋で帰り支度をしていると、ぶっちゃあさんが楽屋に飛び込んできた。

「じゅんいちが優勝したぞ。やったー!」

「優勝? すごいっすねー!」

すごいと思ったし、うれしい気持ちはあった。だが、その一方で心の中が、どんどんと冷静になっていった。そして思った。この歳になって、とうとう売れる人と売れない人の明暗が別れたのかもしれないな、と。

後日、じゅんいちさんと仲良かった芸人を集めて優勝祝勝会を開いた。大きな差がついたライバルの笑顔を見ながら、うれしいような切ないような気持ちが入り混じっていたからか、あまり酔えなかった。家に帰り、サッカー日本代表に俺と顔がそっくりな人はいないかと探したが、誰もいなかった。

恩返しをする前に亡くなる人たち

ライバルの活躍と自分の不甲斐なさ。鬱々とした思いで毎日を過ごしていた俺に、大きなニュースが飛び込んでくる。

<前田健さん死去>

しばらくご無沙汰はしていたが、変わらず元気に活動していたはずの前田健さん。お世話になった先輩の訃報をテレビの速報を見たときは、驚きのあまり言葉が出なかった。そして無性に悲しくなった。この世はなんて理不尽なんだろう。

たしかに人間はいつ死ぬかわからない。「明日、交通事故で死ぬかもしれない」と冗談で言うことがあっても、ほとんどの人は本当に死ぬとは思っていない。

だが、人はいつか死ぬ。突然、俺たちの前からいなくなる。父親のときもそうだったが、会いたいときにいっぱい会っておくべきなんだとつくづく思う。