食えなくても続けたいことなのか?
ヘアメイクというのは、正解がない仕事であると思う。だからこそ、他人の評価が大事だし、自己評価も高くないと続けられない仕事であるように感じる。今、谷本はヘアメイクとして多くの現場を担当しているが、そんな彼が続けられる根拠となるものはなんだったのか。
「やはり、このヘアメイクの仕事を絶対に音楽につなげてやるんだっていう信念です
よね。念ずれば通ず、じゃないですけど。僕のそういう姿勢を見ていたら、周りの方々も“谷本は絶対そっちで勝負したがいい”と言ってくれたし、僕から見ても、音楽を感じさせるヘアメイクっていないように感じたので、ここしかないなって」
全員がそうとは思わないが、多くの美容師の方々はヘアメイクとして仕事をしていくのに一度は憧れたのではないかと思う。それはどちらが上とか偉いとか、そういう話ではなく、自分のイメージ通りにハサミを振れるというのは、とても気持ちのいいことなのではないかと想像する。
「いやー、どうですかね。自分でテクニックがあるとか、そうは思わないんですけど(笑)」
こちらが最後に投げかけた質問に「ちょっと待ってくださいね、ちゃんと考えさせてください」と長く思案した。質問は「同じ業界を目指す人に、アドバイスはありますか?」というものだ。
「なんやろうな、結局、自分が心がけていることをそのまま伝えるしかできないんですけど。僕がヘアメイクでこだわってるのって、いかに自然に見せるかのメイクの質感と髪の質感なんです。
でも、それって見ている人には絶対100%伝わらない、それこそ写真や映像でも伝えるのは難しいと思うんです。でも、そういった制約があるからこそ、僕としてはやりがいがあるし、表現ができると思っていて。直接的には作用しないかもしれないけど、その場の空気は僕のヘアメイクのとおりに動かせている気がして」
あとは「これは根本なのかもしれないですけど……」と前置きして、
「ヘアメイクだからとか、美容師だからとか、あまり肩書きとかカテゴリ分けせずに、人として見られたい、という気持ちが最近は強くなっているんです。作品を見てほしいというより、イチ人間としてどうしたらいいかなってことを考えていて、それは表現、アーティスティックな仕事の根本なんじゃないかなって」
最後に、好きなことを仕事にするということについて聞いてみた。
「好きなことに責任を持ってやるってことじゃないかなと。信頼する大先輩にも“プロフィールに書ける人生を送れよ”と言われたことがあって。さっきの責任というのは、自分の行動を含め、寝食を忘れて……食えなくても捧げられるかどうかってことです。
と言っても、僕の中では、自分の好きなことが収入に結びついてきたのは、ここ最近って感覚なんです。でも、食えなくても続けたいことが、僕にとってはヘアメイクと音楽の仕事をつなげることだったんですよね」
そして、笑いながら言った。
「今回、この取材を受けるにあたって、久々に自分の人生を振り返ってみたんです。これまであまり思い出したくなかった、めっちゃしんどかったライブ設営のバイトとかも、音楽って意味でいうと今に生きてるやん!って思えて。だから、好きなことを仕事にしようとしてる人で、“なんで、こんなことせなあかんねん”って思ってる人は、もしかしたら後々、生きてくるかもよって伝えたいですね」