MVP争いにまつわる陰謀論が浮上
基本的には大谷派、ジャッジ派ともに適切な主張が多く、建設的な意見も目立つ一方、明らかに残念で見過ごせない意見がありました。
それは「アジア人である大谷翔平のMVPやタイトル獲得を拒むべく、リーグが結託をしてアーロン・ジャッジをホームラン王に仕立てている」「大谷選手は申告敬遠したり敬遠気味のボール球を多投したりすることで成績を抑え、ジャッジ選手には打ちやすい球(ど真ん中への棒球など)をあえて投げることで成績を膨らませる」という説。
信憑性に欠けるため、ここまであえて触れずにきましたが、今季のレギュラーシーズンが終了したこと、大谷翔平選手のMVP受賞が確実であること、それでもなおそのような説が散見されることから、あえてこの難題について触れていきたいと思います。
もちろん大多数の意見ではないとはわかっています。ただ言葉を選ばず申し上げると、それはただの陰謀論ですし、まして「日本人、アジア人へ対する差別だ」という根も葉もない理由を挙げていると、なおさら信憑性が下がります。そんな陰謀論を真面目に分析するのは無理があるかもしれませんが、定量・定性の両側面から見てみましょう。
定量:ジャッジ選手への投球はフェアだった
大谷選手とジャッジ選手が、し烈なMVP争いを繰り広げた2022年シーズンのデータをより詳しく読み解いていきましょう。まずは両選手へ投じられた球の割合を見ていきます。
ジャッジ選手:45% / 大谷選手:48%
【ストライクゾーンの縦軸か横軸のいずれかが真ん中の球の割合(以降「十字架ゾーン」】
ジャッジ選手:30% / 大谷選手:32%
【ど真ん中に投じられた球の割合】
両者とも7%
このように大谷選手のほうがストライクゾーン、さらにはコースが甘い球を投じられた割合が少しだけ高く、ジャッジ選手が過剰に優遇されたデータはありません。さらに分解をしていきましょう。
ジャッジ選手:17% / 大谷選手:16%
【十字架ゾーンの球での同割合】
ジャッジ選手:21% / 大谷選手:18%
【ど真ん中の球での同割合】
ジャッジ選手:26% / 大谷選手:24%
ジャッジ選手は「ストライクゾーン、コースが甘い球を仕留める確率が極めて高い選手」ということがわかるでしょう。もしかしたら、この特性がゆえに彼のホームランシーンのみを切り出すと、甘い球ばかり打ち込まれているように見えてしまい、あらぬ勘違いをされているかもしれません。もちろん大谷選手の数値もメジャー屈指であることは言うまでもないでしょう。
定性面:世界のOhtaniに敵はいない
そして何よりも、そもそも「誰も大谷翔平選手を蹴落とそうとしていない」と思います。
もちろん、対戦相手のチームは大谷選手に勝つべく必死に対抗をしてきますが、それはあくまでも「自身が勝ちたいから」。陰謀論の根拠とされる日本人、アジア人への差別といった側面を感じることは皆無です。むしろ、大谷選手率いるエンゼルスと対戦をするたびに、相手チームの選手や監督が大谷選手に関して問われても敬意に満ちた受け答えをし、今や大谷選手や二刀流を批判する野球関係者は誰一人いません(逆張りを狙うコメンテーターは除きます)。
もしも、アジア人に対して差別的な感情を抱く選手やコーチや記者がいたとしても、「大谷翔平選手という野球史を塗り替える逸材に対するリスペクト」のほうが遥かに上回ると言えるでしょう。仮に大谷選手を下げたい投手がいたとしても、対戦相手のジャッジ選手を優遇することはもっとあり得ないでしょう。ジャッジ選手も攻略するべき対象であり、各チームが必死に対策を練り遂行するなかで、それを私的な感情で無駄にすることは想定し難いからです。
今や「日本の誇り大谷翔平」ではなく「世界中のファンの誇りShohei Ohtani」です。国籍問わず、野球関係者・ファンの誰もが魅了され、尊敬する存在へと進化を遂げました。「日本人、アジア人だから気に食わない」というレベルの話が通用しない存在であり、野球のシンボルそのものになっています。
以前、大谷翔平選手が出場した試合をニューヨークのヤンキースタジムで観戦した際に、現地で取材したファンの生の声も圧倒的にポジティブでした。事実、自チームの選手にも辛辣なヤンキースファンやニューヨーカーすら、大谷選手にブーイングではなく大歓声を送っており、ここまで万人に愛され尊敬されている点は、常識を覆す域を超えています。
残念ながら、差別的な思考を持つ人はどこにも存在するので、その事実を全面否定するつもりはありませんが、選手や現地ファンが愚かに人種差別を持ち込んだ際には、周りから大きなバッシングを食らうのは間違いないでしょう。