イカつめ大将とオールバックダンディーとご対面
マップを頼りにお店に向かうと、いかにもという年季の入った味がある店構え。
大丈夫か? オレみたいなシャバ僧の一見さんが入れるか? と思いながらも、勇気を出して扉を開けると、70歳くらいのたけし軍団の中枢にいそうなイカつめの大将と、カウンターには「趣味はバイクと女だね」と言いそうなオールバックダンディーの60代くらいの男性のお客さん。
「あ、すみません。1人なんですけど」
弱々しく挨拶をすると
「おう。入れ」
大将が短く鋭く答える。
来たぜ来たぜ。見た目通りの喋り口調だ。
ワクワクしながら一席空けて座ることも出来たが、あえてオールバックダンディーの席の隣に座る。
「兄ちゃん若いな。どこから来た?」
オールバックダンディーから話しかけられた!
これは仲良くなるしかない!
ワクワクを抑えながら、
「今日東京から来ました」
と答える。
「おー、江戸かぁ。大将、お兄さん江戸からだってよ」
大将はゆっくりと間を空けながら答える。
「おー江戸か」
最高かよ。
東京を江戸呼び!?
こんな粋とダンディズムがギュウギュウな空間あるのかよ!
こりゃ面白くなってきたぜ!
色々とコミュニケーション取るしかねぇ!
とりあえずは東京を江戸って呼ぶのに返さないと!
「いやぁ東京を江戸って言うの渋いですね! オレも今度からそう言うようにします!」
それに対して返事があるわけでもなく、大将は黙々とまな板と睨み合い、オールバックダンディーは静かにグラスを傾ける。
大将はまず、なめろうとワカメの酢和えを出してくれた。
「ゆっくり料理出して行くからよぉ それつまみながら酒でも飲んでてくれ」
大将がぶっきらぼうに説明をしてくれる。
どちらも旨い。
あっという間にビールが無くなり2本目の瓶ビールをもらう。
「よぉ、このあといつものとこ行くのか?」
大将がオールバックダンディーに目も合わさず話しかける。
「まぁな 今日行くってこの前言っちまったからなぁ まったく顔だけ可愛くて生意気だよ」
オールバックダンディーが微笑みながら返す。
「あっ、なんか行きつけの夜の店とかあるんですか? お姉ちゃん系ですか?」
あわよくばこの後一緒にという気持ちを乗せながら質問すると、
「まぁなぁ」
と短く返されてしまった。
そこから鯛の煮付けが出てくる。
めちゃくちゃ旨い。
グビグビとお酒が進む。
オールバックダンディーも芋焼酎のセットを自分で作りながら黙々と飲んでいる。
オレのお酒のグラスが空になったタイミングで大将に美味い麦焼酎があるから飲んでみろと言われ、飲んでみるとそれもまぁ美味しい。
「大将はあんまり酒飲まないけど集めるの好きなんだよな」
「うるせぇよ 酒もタバコも一生やるって決めてんだ」
オールバックダンディーが楽しげに大将をいじり大将もそれを半笑いで返す。
頃合いでにぎりが出てきた。
大将がお勧めで握ってくれる美味い寿司をアテに酒を飲む。
ラジオから流れる野球中継に大将とオールバックダンディーがたまに意見を交わす。
ゆったりとした時間が流れる。
程よくお腹も膨れたところで会計が渡された。
オールバックダンディーが先に会計を済まして
「大将またな。兄ちゃんもまたな」
と挨拶をして店を出て行く。
オレも大将に会計を渡して、挨拶をして店を出る。
やっちまったよ。
完全に欲しがった。
よだれをダラダラ垂らしながら話しかけてしまった。
オレはあんだけやってはいけない欲しがった雰囲気を出したのだ。
きっと懐に入って色々話しを聞けたらとてつもなく面白い話が聞けたはずだ。
そのオレの愚かな雰囲気を嗅ぎ取ったのだろう。
2人の粋とダンディーとのコミュニケーションを絶ってしまった。
オレがもっと受け身でいたら沢山話しかけてくれただろう。
ただ抜群に寿司もお酒も美味かった。
美味かったんだ。
この夜のことはしっかり受け止める。
オレも早く粋とダンディーになりたい。
次回、反省第10回「港区女子を煮詰めた君へ」は、11月20日(木)更新予定です。お楽しみに!!