「スタイルがないのがスタイルかもしれません」
ピッチ上での指導は、ヘッドコーチの川本大輔氏が行います。
「自分が失敗もたくさんして学んだので、指導者にも何も言わないです。失敗しても、究極降格してもいいと僕は思っていますから。そうやって指導者も成長しますからね」
とのこと。中野監督は指導者の成長も見守ってらっしゃる……。
そして選手の背番号ごとに、
「あの5番の選手が塩川桜道ですね。U-20のW杯に出ました。あの29番が、半谷一太と言って、シュートに関しては天下一品。見惚れるくらいうまいですよ」
と嬉しそうに25人の選手全員のいいところを教えてくれる中野監督は、気さくな流経大サッカー部ファンかと思ってしまうくらい朗らかで楽しそうです。
謙虚で、大局的で、お話が面白く、優しい。流経大出身のサッカー選手達が、一様に中野監督を慕っている意味がわかります。
さて練習はピッチの1/4ほどのエリアを使ったポゼッション練習へ。
「激しいボールの奪い合いの応酬ですけど、これは流経大のスタイルですか?」
と尋ねると、
「スタイルですか……むしろうちは、スタイルがないのがスタイルかもしれませんね」
という興味深い答えが。
「うちは早稲田や明治、筑波のように欲しい選手を集められるわけじゃない。私だって仮に息子がいて、それらの学校と流経大に誘われていたら、向こうに行くように勧めますから。プロになれなくても学歴がつきますしね。だからこそ、そういったチームの推薦に引っ掛からなかったけど、プロになりたくて来てくれた子など様々な特徴のある選手たちをプロにするために、その年々で選手に合わせてサッカーをします」
僕が長年感じていた違和感がスッと解消された気がしました。
「ハードワークで勝負している試合なのに、繊細なテクニシャンを真ん中に置いていたり、アンバランスな配置の時もあるなと思っていたのですが、それも?」
「勝つことだけに徹していたら、3倍はタイトル獲れてますよ」
と、不敵に笑います。ずっと謙虚な方なだけに鳥肌が立ちます。
曹貴裁さんが教えてくれたサッカーを楽しむ姿勢
指導に影響を与えたものがあるのかを聞いてみると、
「曹貴裁(チョウ キジェ)さんが見てくれた1年間ですね」
とのこと。曹貴裁さんといえば現京都サンガF.C.の監督としてチームを躍進させているJリーグきっての名将ですが、実はパワハラ騒動で1年間、S級指導者ライセンスの停止処分を受けた後、1シーズン流経大でコーチとして指導をしていたのです。
その際に実質的な指導を全て任せて、後ろから勉強していたという中野監督、ひいては流経大の現在の指導に大きな影響を与えたそう。どんなところが一番印象的だったか尋ねると、
「とにかくサッカーを楽しもう。という指導ですね」
と中野監督。
「サッカーを楽しむ、というとバルセロナや昌平高校のようなテクニック系のサッカーをするチームによく聞かれるキーワードですけど、曹さんの志向するスタイルはハードワーク、球際と真逆ですよね」
と尋ねると、
「球際で闘うとか相手よりもハードワークする、みんなで走り勝つ。それが楽しいと思わせるような指導や、練習メニューを作るのが曹さんなんですよ。選手がハードワークしたくなるような映像を、毎日必ず見つけてきて選手に見せてから練習させていましたから。あれは大変ですよ。あんなのはサッカーを愛してないとできないです」
という興味深い答えが。
そうか、ハードワークで自分たちより上手い相手に勝つ喜びだってサッカーの楽しさだよな。僕自身、病気で全くスタミナがなくなった時期からの完治を経験しているので、運動量で勝るサッカーの喜びを誰よりも知っているつもりでしたが、その僕ですら目から鱗。
個人的に曹貴裁さんのことがすごく好きなので、とても興味深いお話でした。
もちろんパワハラは許されないことですが、今は反省を踏まえてアップデートしながら結果を出していること。
また、騒動以前に指導を受けた選手たち、例えば学生時代にテストの成績を選手全員に提出させるなど、私生活含めて指導を受けた永木亮太選手。怪我がきっかけで若くして代表に入った時のプレーが戻らないと悩んでいる時に指導を受けた山田直輝選手。曹監督が「適材適所よりも彼が成長できるポジションを」と攻撃にも参加できるポジションを与えられてプロの第一歩を踏み出した遠藤航選手など、多くの選手が恩師として名前を挙げていること。
1年間指導を受けた元流経大の選手が、曹さんを慕って京都に移籍したり、対戦相手でも試合後に曹さんのところに嬉しそうに話しかけに行っている姿がよく見られるのも印象的ですが、その理由の一端に触れることができました。


カカロニ・すがや