イタリアのルネサンス時代に誕生したオペラ
ヨーロッパでオペラ劇場へ出かけることは、上流階級の社交生活の中心的な活動のひとつだ。オペラの通俗版というべきものにオペラコミックやオペレッタがあり、これがアメリカでミュージカルに発展した。
世界各国に、音楽と劇と踊りが融合した舞台芸術が存在する。日本では能や歌舞伎がそうだし、中国には京劇(きょうげき)などがあるが、近代のヨーロッパでも、衣装をつけた歌手が演技を行い、主要な台詞を歌唱のなかで表現するオペラが誕生した。群衆などは合唱隊として登場し、伴奏はオーケストラが担当してバレエが挿入された。
「オペラ」の起源は16世紀のフィレンツェで、古代ギリシャの演劇を復興しようとする運動のなかにある。ギリシャ悲劇を題材に、台詞を歌うような調子で語る劇が生み出され、とくにクラウディオ・モンテヴェルディの作品で、1607年にマントヴァで初演された『オルフェオ』は、現在でも頻繁に上演される最古の作品である。
このころのオペラは台詞を歌う趣向であったが、ナポリを中心に徐々に技巧を凝らし、感情表現を豊かにしたアリアの比重が高まり、舞台も豪華になり近代のオペラに近づいた。テーマは変わらずギリシャ悲劇が中心だったが、ギリシャ・ローマ時代の世俗的な人物などに広げられていった。
英国のヘンリー・パーセルによるカルタゴを舞台にした『ディドとエネアス』。日本でも人気のアリア『オンブラ・マイ・フ』で知られるゲオルク・フリードリヒ・ヘンデルの『セルセ』(クセルクセス)は一例である。こうした古典的なオペラは、オペラ・セリア(正歌劇)と呼ばれている。
オペラ・ブッファ(喜劇オペラ)は、セリアの幕間劇として発展し、やがて独立した。ジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージの『奥様女中』(1733年)が最初の成功例のひとつであるが、その頂点に立つのがヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトであって、ロレンツォ・ダ・ポンテが台本を担当した『フィガロの結婚』(1786年)、『ドン・ジョヴァンニ』(1787年)、『コジ・ファン・トゥッテ』(1790年)のオペラ・ブッファ3部作は、現在でも最も人気のあるオペラであり続けている。
モーツァルトは、伝統的なオペラ・セリアの分野でも『イドメネオ』のような傑作を残し、これは名テノールのルチアーノ・パヴァロッティが得意役としていた。ドイツ語のジングシュピールという音楽を伴わない大衆的なオペラ分野で『後宮からの逃走』や『魔笛』という傑作を残している。
彼の先輩やライバルたちの影は薄いが、ミュージカル『アマデウス』でモーツァルトの才能を妬む敵役として描かれたアントニオ・サリエリや、ドメニコ・チマローザ、ジョヴァンニ・パイジエッロは、当時はモーツァルトをしのぐ人気を得ていた作曲家である。
※本記事は、八幡和郎:著『365日でわかる世界史』(清談社Publico:刊)より一部を抜粋編集したものです。