世界に通じるようなベンチャーが出てほしい
――今までと趣向が違う本を出してみて、手応えに違いはありましたか?
大西 ありますね。今朝も駅前で地元のケーブルテレビに出ていたんです。こういうことは、これまでの本ではなかった。そもそも、新聞記者時代から“新聞話者”って言われていたんですが(笑)。
――あははは!(笑)
大西 この本を出したおかげで、政治の基本に気づけた気がします。「小学校はどうする?病院は?消防署は?」というのもそうですし、もっと言うと「信号機が見にくいから木の枝を切って」という細かい話まで。これって全部、市政の仕事なんですよね。市政はそのまま生活に結びついている。
霞ヶ関で国政調査を見て、“うーん”って机の前で唸っているだけでは何も変わらない。本来であれば、税金の比率も地方にもっと厚くするべきと思いましたし、これまでビジネス寄りの話しか書いてこなかったから、視野は確実に広がりましたね。
―――なるほど。もしかしたら、これまでの大西さん自身が、霞ヶ関の人たちみたいな感じだったかもしれないってことですよね。それを今、この本を書いてみて「あ、なるほど。数字っていっても、その裏には人間がいて、その人たちの思いがあって。じゃあ良くするためには、こうしていきたいという目標があるんだ」ってことがわかった。それはすごいことですよね。
大西 本当にそうですね。あと、次のステップで期待するのは、流山から世界に通じるようなベンチャーが出ることです。
―――出てもおかしくない土壌ですもんね。
大西 はい。それだけの人材が集まってきているし、何か化学反応が起こって、そこに誰か投資家の方がお金を出す。ユニコーン企業ができてもおかしくないかなと思います。ベンチャーといえば西麻布の時代はもう古い、となっていけばいいなと思います。流山に集結したスーパーウーマンの子どもたちが、ここでビジネスを始める未来があってもいいじゃないですか。
――やはり、人間が財産ですもんね。
大西 お金をばらまくことじゃないんですよね、人が自由闊達に、好きなことに没頭できる場を作ることが、政治の役割だなと思います。
――最後に、今後の大西さんの野望をお聞きしてもいいですか?
大西 今回、流山のことを書いて、こういう本を書いていきたいなと思いました。これまでは株式会社リクルートの創業者である江副浩正さんについて書いたり、スティーブ・ジョブズが憧れ、孫正義を見出した、シャープの佐々木正さんというエンジニアについて書きましたが、この3冊に共通しているのは、“もう一回、日本、頑張ろうよ!”という思いなんです。
――なるほど。
大西 私はノンフィクションの枠から出る気はなくて、地道な取材のもと、そこで頑張っている方々の声を拾いつつ、まだゲームセットじゃないよと。こう言うと『SLAM DUNK』の安西先生みたいだけど(笑)。“最後の一秒、ブザービーター狙おうよ”という思いを伝えたいんです。で、シュートを打って欲しいし、打つ人を邪魔すんなよって。
――ああ、たしかに。
大西 新しいことをしようとすると、邪魔する人が多い。でも流山の市民は、井崎義治っていう既存の政治の枠とは関係の無い人を市長にして、20年間支えた。流山市民が偉いと思います。「面白そうだからやらせてみようよ」と邪魔してなかったでしょ。もちろん「あんな政治の素人に」みたいなことを言う人たちもいたんですよ。
―――既得権益もありますもんね。
大西 そうです。でも、彼を推す声の方が強かったから、20年間市長をやれたわけです。途中で選挙に負けて政策がブレていたら、たぶん今の流山はこうはなっていない。活気がない普通の地方都市になっていると思います。いまこうして喫茶店でお話をしていても、ベビーカーを押すお母さんとか、お子さんを横に座らせて仕事している女性の多さに気づきませんか?
――たしかに、都内近辺ではあまり見ない風景でびっくりしました。
大西 これが、あるべき未来だなと思います。これからも市井の方々の言葉を拾って、少しでも住みよい社会になるような、日本が盛り上がっていけるような、そんな著作を書いていけたらいいなと思います。