「スケベな文化人」への憧れが現実となる
かつては漫画家を志していたはずの呂布カルマは、今やジャパニーズ・ヒップホップを代表するラッパーの一人だ。それどころか、彼の活動はヒップホップだけにとどまらない。例えば『ワイドナショー』(フジテレビ系)や『ABEMA Prime』(ABEMA)で意見を求められるコメンテーター的な仕事も多い。
「こんなアンダーグラウンドなラッパーに、テレビという公の場で“どう思いますか?”って聞いてもらえるのがすごいことだと思うし。一般の人はラッパーの意見なんて無視してきたのに、それが自分の言うことに聞く耳を持ってくれるんですもんね。『Mr.サンデー』(フジテレビ系)に出たとき、宮根(誠司)さんと木村(太郎)さんのあいだに俺が座ってるっていうのは、さすがにワケわかんなかったですもん(笑)」
とは言え、すべてのオファーを受けているわけではない。例えば「ちょっと、ラップやってみてください」という共演者からのフリや、「芸人とフリースタイルバトルをやってください」という出演オファーは、彼の中でNGだ。
「最初の何回かは“ラップやってください”というフリに応えてたんですけど、全然おもしろくないし、伝わらないし、結局は一発芸とか謎掛けみたいな使われ方なんですよ。それってヒップホップにとってあんまりいいことじゃないなと、今は断るようにしてますね。
何年か前にCreepy NutsのR-指定がよくやらされてて、それを見て“大変そうだなぁ”と思ってたんです。その頃は自分もそんなにバラエティー番組に出てたわけじゃないし、他人事だったんですけど、自分がそうなってからは“R-指定がやらされてたのはこれか!”と。やっぱり断ろうと思いましたね。で、俺が断った“ラップ仕事”みたいなのを、ほかの知ってるヤツがやってたりするんですけどね」
テレビの露出に関しても、持ち前のバランス感覚を発揮する呂布カルマ。しかし、元来は彼もアンダーグラウンドのラッパーだ。テレビというメディアと付き合うなかで、トラブルが勃発したことはなかったのだろうか?
「こんなにテレビに出るようになる何年か前、NHKの番組にちょこっと出て、そのときに“番組の番宣用のコメントを動画で撮って送ってくれ”と言われたんです。そこで、すごい過激なやつ、全身和彫のSMの女王様と一緒にいろいろやるっていう動画を撮って送ったんですけど、かなり問題になったみたいで、めっちゃ揉めました。最初に確認したとき、“なんでもいい”と言われたから、わざわざ予定をあわせて撮ったのにって(笑)それからはずっと音沙汰がなかった」
これも笑い話としてサラッと言いのけたが、言うなれば「NHK出禁」である。これが事実だとすれば間違いなく土壇場だ。事実、かなりややこしく、大きな問題になったらしい。それが解決したの、あのCMがきっかけだった。
「ACジャパンのCMに出たら、そのとき揉めたディレクターから“CM見たよ、がんばってるじゃない”って連絡が来たんです。“雪解けたー!”みたいな(笑)、なんでも出とくもんだなと思いました。あのCMに出るようになって、これまで“怖い人”“何をするかわからない人”というイメージが柔らかくなったように感じています」
かつては漫画家を目指していた彼が、ヒップホップで名を馳せて立っている現在地。これは、まさにストリート・ドリームスだと思う。彼の中に感慨のようなものはあるのだろうか?
「若いときからスケベな文化人というか、“リリー・フランキーとかみうらじゅんみたいになりたいんだよねぇ、何者かわかんない感じのスケベなおっさんみたいな文化人になれたらいいなぁ”とは周りに言ってたんですよ。で、今は本当にそうなったんで、嫁さんも“本当にそうなったね”みたいな感じで言ってくれますね。
エゴサをすると、“呂布カルマってラッパーだったの?”って、つぶやきが見つかるんですけど、それは俺がマジに望んでた売れ方なんです。あの人、何やってる人かわかんないっていう。所ジョージも“この人、歌手だったんだ”って言われるじゃないですか? そういう、何者かわからないけどテレビに出てる人に憧れがあったんで。で、まさに今、そういうふうに言われてるのは“しめしめ”って感じです」
ヒップホップがアニメに肩を並べるのは無理
呂布カルマを筆頭に、般若やR-指定らが活躍した『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)の功績によって、フリースタイルバトルは一般層に広まった。この状況は、ヒップホップが一般層に広まったと言ってもよいだろうか?
「う~ん……昔みたいに、みんなが共通のモノを見てないじゃないですか。ヒップホップ好きな人は、俺が子どもの頃より増えたと思うんですけど、でもやっぱり、アニメとかボカロとか韓国のアイドルには勝ってないし、本当の意味で流行ってるとは思わないです」
では、日本のヒップホップがアニメや韓流アイドル並みの人気に到達するには、どうすればいいのだろう?
「いや、そのくらいのレベルにしようと思ってないっすね。日本では無理じゃないですか? やっぱ、その国のお国柄があると思うんですよ。日本風にしたポップスみたいなラップ、例えば、昔のシーモネーターとかRIP SLYME、KICK THE CAN CREWみたいな形で売れることはできるかもしれないですけど、別に自分はそれを求めてるわけじゃないし。俺が好きなヒップホップが流行るのって、たぶん無理なんすよ」
もう1つ、突っ込んだ質問をしてみたい。フリースタイルバトルのブームに否定的なラッパーも存在する。そういう声を呂布カルマはどう感じているのか?
「それは単純に、よその芝生が青く見えてただけだろうなぁって感じですかね。両方やればいいじゃんって話じゃないですか、出てない人たちがバトルっていうものを考えすぎっていうか。だから、“あんなことで有名になって!”と思うんでしょうけどね。
俺にとっては腕相撲みたいなもんで、勝とうが負けようがどっちでもいいんですよ。オリンピックに出るようなアスリートよりも、『筋肉番付』(TBS系)で跳び箱を跳んでるタレントのほうが有名みたいな話だと思うんです。エンターテイメントなんですよ。
俺は両方(楽曲とフリースタイルバトル)やってたんで、どっちもどっちと思ってました。本当に興味ないんだったら、その話をしなければいいし、“うらやましいな、疎ましいなと思ってるんだろうな”というふうに見てましたね」
フリースタイルバトルで名を馳せ、楽曲をコンスタントに発表し、そして念願だった「何者かわからない文化人」にもなった呂布カルマ。そんな彼が今、見据えている目標を聞いてみた。
「サイボーグになることですね。人間じゃなくなるってことを目標にしてます。ということは、肉体的に老いを感じることもなくなるし、タイムリミット(寿命)がなくなるってことなので。“今やってることを永遠に続けたい”と思ったら続けられるし、身体的にできないと言われていたこともできるようになる。
だから、機械の体を手に入れ、睡眠欲・食欲・性欲の三大欲求から解放されて、高度な知的生命体になりたい。これは、本当になると思ってます。“なりたい”というか、“なる”と思ってます。なので、それを楽しみにしてるって感じですね」
呂布カルマには、“鋼鉄の心臓”という異名がある。本当にそうなるということか。
(取材=寺西ジャジューカ)