日本固有の“助け合い”という国民性を強みに!

大石 たとえば昔の話で言いますと、トヨタ自動車は“QCサークル”(小集団改善活動)というのをつくって、工場の仲間たちが数人、数十人でグループを組み、「どうすれば生産工程が改善できるだろう」「どうすればもっと効率的なやり方ができるんだろう」といったような議論をして、提案させるような制度がありましたよね。そういうところでアイデアを出したり工夫したりするのは、実は、日本人が最も得意とするところなんです。「自分が仲間のために役立っている」というのを感じられたとき、日本人は至福感を感じられるんですね。

新保 まさに「仲間との調和」を重んじた日本人ならでは、ですね!

大石 そうなんです。ところがアメリカ人は限られた、与えられた責任の中で自分の仕事を果たしきったというところに非常な喜びを感じるんですね。アメリカ人や、総じてヨーロッパ人はそういう傾向にあるんです。その影響を受けたがために、日本人は時間をかけて、本来持つ強みを捨ててきたわけです。

新保 なるほど。

大石 たとえば、京セラが“アメーバ経営”といわれる経営システムになっているのはご存じですよね。だいたい7人ぐらいの“アメーバ”と呼ばれるグループに分けて、それぞれに責任を持たせるんです。つまり、「Aさんの責任です、Bさんの責任です」ではないんです。Aさんも入っている、Bさんも入ってる、Cさんも入っている、あと数人が入っているこのグループ全体の責任だよ、というスタイルで仕事をさせるんですね。そうすると、「これは、ここはAさんが不得意だから俺がやっておこう」だとか、「Bさんが得意なあそこを任せるかわりに、ここは自分がやっておこう」といったような“助け合いが勝手に起こってしまう。本来の日本人はそういう国民性なんですね。これを大事にしない手はないですよ。

▲ラジオ番組でも「国土学」をわかりやすく解説している

新保 本当にそうですね。これから、少しずつコロナの収束がだんだんと見えてきたとしても、いつ第2波、第3波がやってくるかわからないという中で、ワクチンや薬などの治療法が確立する時期は全くわからないので、そこに頼るだけでなく、われわれ自身に何かできるというところを掘り下げたい。そのキーワードが、もともと国民性として持っていた“助け合い”や“仲間”を大切にするということなのかもしれません。

大石 そうです。今回のコロナが起こる直前まで、私たちは医療環境を悪化させてきましたよね。感染症病床を8割も削ってしまったり、東京の有名な病院にしても「統廃合してしまえ」だとか、それから日本に今166万ある病床数ですが、そのうち13万床を削ってしまえという議論をやったのが、まさに、昨年の秋なんです。

新保 なぜ、そんな議論が起きてしまったのでしょう。

大石 それこそが前回も述べた「財政再建至上主義」「プライマリーバランス最重視」といったような考え方なんです。この財政再建至上主義、プライマリーバランス重視を、今回のこのコロナショックで私たちが捨てきれるかどうか……これに尽きると思います。捨てることができなければ、間違いなく三流国に転落するようでしょう。すでに二流国になっていますけれど。

新保 三流国……。なんとしても避けなければいけない道ですね。次回は、なぜ日本が二流国になってしまったのか、その抜本的な変革などについて、深く掘り下げていければと思います!

[お話を聞いた人]
大石 久和(おおいし ひさかず)
1945年岡山県生まれ。京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、70年に建設省(現国土交通省)に入省。道路局長などを歴任、道の駅の制度化などに尽力し、2004 年退官。その後、全日本建設技術協会会長、土木学会会長、日本道路協会会長等を歴任。また早稲田大学大学院(客員教授)、東京大学大学院(特任教授)、京都大学大学院(特命教授)としても教鞭を振った。専攻は国土学。 国土に働きかけるインフラ整備とその恩恵の体系、社会資本整備の哲学である「国土学」を提唱。著書に「『危機感のない日本』の危機」(海竜社)、「国土と日本人 災害大国の生き方」(中公新書)、「国土が日本人の謎を解く」(産経新聞出版)、「国土学 国民国家の現象学」(北樹出版)、「国土学事始め」(毎日新聞社刊)などがある。趣味は家庭菜園。 ※『ニッポン放送』HPより転載

 『フリーアナウンサー・新保友映の「あの人に会いたい!」』は次回6/4(木)更新予定です、お楽しみに。 


聞き手
 
新保友映(しんぼ ともえ)
フリーアナウンサー。山口県岩国市出身。青山学院大学卒業後、ニッポン放送にアナウンサーとして入社。『ニッポン放送ショウアップナイター』『板東英二のバンバンストライク』などでプロ野球の現場取材などを長く担当。その他『オールナイトニッポンGOLD』『高嶋ひでたけのあさラジ!』『高田文夫のラジオビバリー昼ズ』『三宅裕司サンデーハッピーパラダイス』などニッポン放送の看板番組を務める。2018年6月よりフリーアナウンサーとして活動を開始。プロ野球の取材・コラム執筆、経営者のインタビュー、イベントの司会など、幅広く活躍している。
所属:B-creative agency (http://bca-inc.jp/)
出演:『大石久和のラジオ国土学入門』(ニッポン放送) https://www.1242.com/kokudogaku/