今後の「在宅勤務」のあるべき姿とは?
新保 いま、学校のお話が出ました。我が家にも小学1年生の子どもがいるのですが、日本の教育という部分では、今後どのように変えていくべきだとお考えでしょうか。日本ではオンライン授業も行き届かず、これで大丈夫なのかなと不安を覚えます……。
大石 子どもの教育については、在宅での勉強ができるような環境の整備を、日本政府がきちっと財政的な負担をしつつ、早急に整えるべきだと思いますね。教育に関して掘り下げますと、公的な費用負担がOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で日本は最低の国なんです。つまり、「家計に金銭的な責任を負わせている、OECD加盟国の中で最大の国だ」ということです。
新保 親の立場からすると、複雑ですね……。
大石 この現状も、財務省の財政再建至上主義から来ているんですよ。「財政再建を守るために、子どもの学力、能力が世界の人々から大きくビハインドしていってもいい」なんてことがあっていいはずがありません。われわれは財政を再建するために国を構えているんじゃないのですから。そうではなく、あくまで豊かになるために国を構えているんです。この点を、はき違えてはいけませんね。
新保 本当にそうですよね。また、今回のコロナショックでいわゆる「東京の一極集中」という側面が、あらためて浮き彫りになってきたように思うのですが、これを教訓に、私たちはこの東京一極集中をどのように改善していくべきでしょうか。
大石 今回の騒動で、多くの方々が在宅勤務を経験されましたよね。これは、ある有名な経営者がおっしゃったことなのですが、近い将来、たとえば群馬県に居を構えて、広い家を持って東京の本社に勤務する……そんな勤務と居住の状態というのが可能になるのではないか、ということなんです。
新保 群馬県に住みながら、東京の会社に勤務する、と。
大石 北関東区間ですから、北関東に居住を求めて、かつ、東京で働けるような状態ですね。そういったことが本当にできるようになると、これは一極集中の解除につながるかもしれません。在宅勤務というのであれば、本来はこの形を目指すべきなんですね。なぜなら、在宅勤務自体が目的ではないからです。通勤や家賃の負担を軽くして、人々が緑や美しい水や、きれいな空気の中で暮らしながら子育てができて、かつ、東京で勤務して、高い生産性を手に入れることができる。この環境をどうやって手に入れるかという議論をすべきなんです。
新保 それはすごく面白い発想ですね! いわゆる「新しい生活様式」としてのテレワークや時差出勤という言葉に、まるで“頑張ってこうしなさい”と少し命令されているようなネガティブな印象が強かったのですが、今のお話を伺いますと、そもそも視点を変えて、そういう働き方を目指していくことが非常に大事だということがわかります。
大石 そうですね。「日本は都会を出るとその外は砂漠だった」という国じゃないんですよ。都会を出ると緑豊かで清流が流れ、きれいな空気がふんだんに吸える、そういう国なんです。この美しい環境を利用しない手はないんじゃないかと思いますね。
新保 「これからどうなっていくんだろう」という暗い不安ばかりでしたが、働き方も含めて、明るい光が見えてくるようです。今こそ、日本の良いところや強みというものを、あらためて見つめなおす時期なのかもしれませんね。それこそ、大石さんの「国土学」ならではの視点という気がします!
大石 ありがとうございます。
新保 次回は、大石さんの提唱する「国土学」について、あらためてお聞かせください!
大石 久和(おおいし ひさかず)
1945年岡山県生まれ。京都大学大学院工学研究科修士課程修了後、70年に建設省(現国土交通省)に入省。道路局長などを歴任、道の駅の制度化などに尽力し、2004 年退官。その後、全日本建設技術協会会長、土木学会会長、日本道路協会会長等を歴任。また早稲田大学大学院(客員教授)、東京大学大学院(特任教授)、京都大学大学院(特命教授)としても教鞭を振った。専攻は国土学。 国土に働きかけるインフラ整備とその恩恵の体系、社会資本整備の哲学である「国土学」を提唱。著書に「『危機感のない日本』の危機」(海竜社)、「国土と日本人 災害大国の生き方」(中公新書)、「国土が日本人の謎を解く」(産経新聞出版)、「国土学 国民国家の現象学」(北樹出版)、「国土学事始め」(毎日新聞社刊)などがある。趣味は家庭菜園。 ※『ニッポン放送』HPより転載
『フリーアナウンサー・新保友映の「あの人に会いたい!」』は次回6/11(木)更新予定です、お楽しみに。
所属:B-creative agency (http://bca-inc.jp/)
出演:『大石久和のラジオ国土学入門』(ニッポン放送) https://www.1242.com/kokudogaku/