カメラを切った瞬間、市川優月は号泣した
これ以上なく、グダグダなエンディングを終えて楽屋に戻ってきた2人。
そこにはスタッフが回すカメラが待ち構えていたのだが、2人はちょっとおちゃらけてごまかそうとした。たしかにアイドルとしては、それもアリなんだと思う。
でも、本当にそれでいいのか?
誰も口にしなかったけれど、楽屋の空気は完全にそうなっていた。
悔しいなら、それでいい。
次に悔しくならないようにすれば、それでいい。
誰も「愛来と鈴木萌花の分までやってみろ」とは思っていない。あの2人にはできないことを見せてくれたら、きっと、4人揃ったときに、もっと面白いアメフラっシが見られるだろうし、はじめてのステージから満点なんてとれっこないのだから。
逆にこの日のライブを見て「ちょっと物足りなかったな」と思ったお客さんが、のちに楽屋でヘラヘラしている2人の姿を目撃してしまったら、どう思うだろうか?
5分、10分、15分。
もう、渋谷での舞台には間に合わない。いや、ものすごく急げば、なんとか間に合ったのかもしれないけれど、さすがにこの場から立ち去ることはできなかった。ある意味、この2人のアイドル人生において、めちゃくちゃ重要な局面が目の前に広がっているのだから。
小島はなは口を開いたが、まったく声が出ていない。おそらく、声を出したら嗚咽に変わってしまうことをわかっているのだろう。ただ、その口の動きから「自信がなくなった」と言っていることだけは読みとれた。懸命に言葉を振り絞っていた市川優月は、カメラのスイッチが切れた瞬間、両手で顔を隠して慟哭した。
悔しかった、不甲斐なかった。
それをどうやって表現していいのかがわからない2人だったが、その想いはこちらに痛いほど伝わってきた。スタッフも「いつとは約束できないけど、この気持ちをぶつけられるリベンジの場を作れれば……」とこれが「一過性の悔しさ」で終わらないよう、こっそりと動き出した。
時計の針はすでに13時半を回っていた。
いまごろ渋谷では、愛来と鈴木萌花が女優としてスポットライトを浴びている。
あまりにも対照的すぎる「2020年3月20日のアメフラっシ」の情景。
ただ、この1日を経て、今後のアメフラっシの活動は俄然、楽しみになってきた。4月10日に予定されていた単独ライブは諸般の事情で止むを得ず、中止となってしまったが、すでに5月17日の開催が決まっている。万が一、この日も流れてしまうような状況になってしまったとしても、その先に8月15日の単独ライブがすでに発表済みだ。
今年に入ってから早めにスケジュールが出されるようになったことで、メンバーはもちろん、応援するファンにとっても、しっかりと「次」を見据えられる体制ができた。その道のりはこの連載でも、しっかり書き記していこうと思う。いま、まさに彼女たちの『歴史の転換点』が目の前で起きているのだから!
翌日。
仕切り直して、渋谷に愛来と鈴木萌花の舞台を見にいくと、同じ列で小島はなと市川優月が観劇していた。
はたして、この2日間で彼女たちはなにを思い、なにを感じたのか? そして、この先、どんなビジョンを抱いているのか?
次週からの市川優月インタビューで、そのあたりを深く掘り下げていきたい。
【連載10回目の追記】
時に現実は残酷なまでに彼女たちに襲い掛かる。空と虚。あの日、市川優月と小島はなは、地獄を見たといっても過言でないかもしれない。一方で、若い「ゆづはな」にとって、挫折もまた成長のための大きな〝糧〟となる。果たして彼女たちは何かを得ることができたのだろうか。あるいは……次回からは市川優月の胸の内に迫っていきたい(NewsCrunch担当編集より)。